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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「わけというのは、この銀五郎が、失礼ながらあなた様にあいそをつかしているからです。早くいやあ見きりをつけてしまったんだ……法月弦之丞という方は、腕は優れているけれど、泪もなければ血もない武士だと……」

「待て。ではそちは、あくまでお千絵様のことをいうて、この身を責めるのじゃな」

「責めます! 弦之丞様。わっしをこうして助けてくれる程なお心で、なぜ、お千絵様を救って上げては下さいませぬか」

「ウーム、いうな銀五郎! そのことだけはいうてくれるな」

「いえ、い、いわなくちゃなりません……」銀五郎は彼の手頸を固く握りしめた。怖ろしい力のふるえが感じられる。その眼は衰えた中にもあらん限りの訴えを燃焼している。唇が渇く、舌がもつれる……しかもまだ烈々の侠血は唐草の五体に溢れ返って見える。

「先の晩にも、あの通り、諄いお願いを致しました。もうこれが最後のお言葉をきく時です。さ、おっしゃって下さいまし。江戸へ帰ってお千絵様を救ってあげて下さるか。それとも厭か……それを」

「無理じゃ……」弦之丞は良心の苛責と、銀五郎の言葉の鞭に、顔まで蒼白になりながら身を悶える。

「江戸へは帰られぬ仔細がある。