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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

いい按配、蜂須賀家の探りでもないらしい、行ってしまったな――と思っていると、また同じ所から、

「少しものを訊ねたいが」という声がする。

源内は、うんざりした顔で、

「なんですか」

「こちらに住まわれているのは、もしや平賀殿と申されはすまいか。間違ったらご容赦にあずかりたい」

「いかにも、源内ともうす医家でござるが……?」

「おう、やっと尋ね当てましたな」と虚無僧の者、木戸がある訳でもないので、垣の門から、ズッとそこへ入ってきた。

「どなた? ……」医家の尊厳を保つために、机の前へ帰って、片肘を乗せ、「ご病気でござるか、診て進ぜよう、さあお上がりなされ」ととぼけている。

「いや、薬餌を求めに伺った者ではございませぬ。拙者は法月弦之丞と申す者――」

「待たっしゃい。言葉も江戸のようであるし……法月とは聞いたような」

「麹町に住居いたす法月一学の悴。江戸ではかねて御高名を承っておりましたが、お目にかかるのは初めてにござります」

「ほほう……麹町の法月一学殿といえば、大番頭をお勤めになる七千石の旗本、その御子息であらっしゃるか。ふウむ……」と少し意外な顔をしたが、「そして私に何の御用がありますかな。