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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
それは法月弦之丞であった。
書院窓に耳をつけて、なおも、菊の間の話をジッと聞いている……。
お米が、綱倉へかどわかされてきた晩――。彼は、番士の手槍を引っぱずして一太刀に斬ッて捨てて、もとの誓文神の抜け穴から姿を隠した。
そして四日目。
いよいよ明日は卍丸が出るという今宵。お船蔵の混雑にまぎれて、大胆にも、この下屋敷の域まで足を踏み入れてきた。
宵のうちに、隣帆亭の方で、阿波守初め四人の公卿が、密議をこらしていた様子も樹立の中からうかがっていた。
しかし、そこでは、容易に近づけなかったが、やがて、広間の方へ席を移して、別宴になった隙を計り、彼は用部屋の床下から奥へ匍い進んで、ムックリ、ここへ姿を現したのである。
足拵えはわらじ膝行袴、身軽にしたのはイザという場合の用意だ。
剣山の間者牢の由来――天草当時のいきさつ、また義伝公毒害のことから徳川家へ根強い怨恨をふくんでいる訳――。それらの話をきくにつけて、弦之丞は心の裡で、
「ウーム、いよいよ阿波の密謀はたしかだ」と信じた。
さらにまた、それが一朝一夕の陰謀でなく、義伝公以来歴代の太守が、幕府に隙さえあらばと、常に鏃を研いでいたことに違いない、とも思った。