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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

だが、痛くなかった。

そこには畳が敷いてある。プーンと、湿っぽい煤の匂いが鼻をうった。そして、どうやら伽藍のように広い部屋だという気がした。

深々と、毛の根のしまる寒さと、所々、骨ぶしの痛むのをこらえながら、かれはまた、暗黒の部屋を探りだした。

けれど、そこは、手探りで測りきれないほどな広さであった。畳数にしたら、およそ七、八十畳も敷けているかと思われる。

太い角柱にさわった――八寸角ぐらいの堅い柱である。

また、氷のように冷たい羽目板も撫で廻した。二間おきに柱があり、また羽目板がつづいていた。

こうして、グルリと一巡探ってみると、この部屋は、目鼻のない顔のごとく、障子もなければ出口もなく、無論、床の間とか書院窓のような造作もない。

「アア、やっぱりここは、屋敷の地底へ建てた隠し部屋に違いない……」

冷静にかえると同時に、ふだんのお綱に戻ったかれは、その時、初めてハッキリと、自分の居場所が分ってきた。

そして何やら、カラリと、足にふれて鳴った物がある。手を伸ばしてみると匕首だ! 自分が鏡の裏からここへ墜ちた時まで、握りしめていたあの匕首だ。

こんな場合、刃物というものは、不思議な強味を与えるのである。