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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「どう考えてみても、弦之丞様が、江戸へお戻りなされる筈がない。これは何かの間違いでありましょうが」

「たとえ、間違いであったにしろ、せっかく、お綱とやらがああ申します程に、ここを遁れ出ようではございませぬか。どうなろうと、この上運の悪いほうへ、転ぶ気づかいはありませぬ」

「といって、たみや、お前にこの厳重な所から、逃げ出られる工夫がありますか」

「さあ?」

おたみは、初めて悲しい当惑を知った。周馬が、抜け目なく出口を断ってある、八方封じの地底の部屋――。お綱の帰り途もない筈である。

「お嬢様」

おたみは励ますように語を強めて、

「――逃げられます! そこの境さえ切り破れれば、あの鏡の裏の出口から」

「お千絵様」

またこちらから、お綱がいった。

「ここの境は、この匕首で、わたしが必死に破ります。さ、早くお支度をなさいまし。もし周馬のやつが帰ってきた日には、それこそもう百年目――」

と。お綱はまた匕首をとりなおして、人の体が抜け出られるまで、無二無三に切り開け始めた。

そのまに、おたみは甲斐甲斐しく身支度をした。けれど、お千絵にはまだ幾分かためらう様子がある。それを見ると、おたみは乳母らしい言葉で、