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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

例によって、そろそろ鳩談義の味噌が出そうな口ぶり。

「へへへへ」毎度のことなので、東助もツイ笑ってしまった。

「折角のご自慢でいらっしゃいますが、この老爺は、種を存じておりますので、実は余り感服いたしませぬ」

「ばかなことを、種なんぞと、誰に聞いた」

「天満のお屋敷で伺いましたので。はい、常木様がおっしゃいました。伝書鳩を古く使ったのはたしか唐の張九齢が元祖じゃ、一八郎が初めではないと」

「これはいかん、さようなことをおっしゃったか」

「はい、虫蝕本の『八通志』、『還家抄』などと申す書にもいろいろ載っているそうでござります」

「あははははは、もうよい、いうないうな」

「いつも旦那様の天狗講釈にあてられておりますので、その鬱憤によく伺っておきましたので……」主従、笑いに紛れている門へ、女客の訪ないがする。東助が出てみると、目明し万吉の女房のお吉であった。何か心配事がありそうに、悄々と通されて一八郎の前へ坐った。

「いかがいたした、たいそう沈んでいるではないか」

「はい」お吉は、ふだん世話になりがちな礼を述べて、「実は旦那様、万吉が、今日で五日も宅へ帰りませぬ。このところ、御用なしだといっていたのに、一体どうしたものでございましょう」