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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「まア、のんきなものでございます。どうもありがとうぞんじました」

「せっかく、いい気持そうにしているのに、目をさますといけませんから……」

カラカラと夜寒に下駄をひびかせて、濡れ手拭を下げながら湯上がり姿を風に吹かせて出ていった。

捕手は足をしびらせていた。今か今かと息をひそめて待ち切ったが、まさか、今乳呑み児を抱いて出てきたものが、見返りお綱であろうとは、誰も見破る者がなかった。

そのうちに、アラ、私の下駄がない、と湯屋の門で騒ぎだしたものがある。

さてはと、初めて思いあたったが、もう長蛇はとッくに逸していた。お綱は、風呂の中で、女同士のありがちな親しみを向けて、その人をおとりに、まんまと重囲を脱してしまった。

しかし、今夜虎口はひとまず遁れ得たにしろ、お綱がお三輪と乙吉に会ってから、一そう切実になった悪と善心の闘い、恋と環境の添わぬなやみは、かれの行くところまた走るところへ、影身にからんでつきまとって行くであろう。

そのせいか。

一月寺では万吉が、弦之丞とともに、お綱の訪れを待っているのに、二、三日たっても、その姿が見えなかった。

投げ十手

お江戸日本橋。