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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

その声に、意識を茫とさせていた怪我人は、かすかな気を呼び起こしたとみえ、あらぬ方へ力のない目をみはった。

枕元の者は、その耳へ口をよせて、

「お綱さんが見えましたよ。お前さんの、待ちぬいていたお綱さんが――」

顔の近くへ、指をさして示してやると、虎五郎の鈍い目は、それにしたがって、その姿を見ようとするらしく必死にみはった。

そして、しばらくするうちに、薄暗い行燈の灯かげへ、ソウ……と寄ってくるお綱の姿が、やっと、彼の眸に入ったのであろう、下瞼の肉をビクとさせて、ボロボロと涙を流したかと思うと、

「オオ……」

異様な感情の昂ぶりに唇をふるわせた。

「お父っさん――」

その刹那に、お綱は何も忘れて、虎五郎の側へ飛びついていった。そして、養父の出した手の上へ、自分の両手と顔をうつ伏せた。

「ア――」不意に、まわりの者が中腰になって、怪我人の顔を見なおした。瞬間であったけれど、見違えるほど皮膚の色が変って、動かぬ眸が吊り上がっている。

「お父っさん!」

「おやじさん!」

「もし、もし……」

「気をしっかりしておくれよ。せっかく、お綱さんが来て間に合ったものを」

「アア、もう難かしそうだ。