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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「御両所、この家に油断のならぬ奴が潜んでおりますぞ!」こう息まいたのは森啓之助。

表二階へ戻ってくるなりに、偸み聞きした銀五郎の言葉、また怪しむべき様子を指摘して、偵吏のごとく同僚の二人へ奥庭の仔細を告げた。

最前から、そこに浅酌していた天堂一角と九鬼弥助は、お米の後に尾いて姿を消した啓之助を、実はおかしい方へ推量しているところだったが、彼の語調や、聞き流しのならぬ事実に驚いて、思わず盃を下へおく。

「ふウん、そんな奴が隠れているのか」弥助と一角は顔見合せて、「甲賀世阿弥の名を口にし、阿波の境へ入りこもうとする奴なら、紛れもなく江戸からの廻し者じゃ」

「引っ縛ってお屋敷へ送り込み、とくと吟味をしてみる値打ちがござりましょう」

「あるとも。すぐ踏み込んで取り押えてくれよう」

「相手は町人、大事はあるまいが念のために、天堂氏も一方を見張って下さるまいか」

「承った――」と、やおら自来也鞘を左にひっさげて、巨躯を起こした天堂一角。九鬼弥助、森啓之助を先に立たせて、酔いざましの好場所もあらばと腕を扼して立ち上がった。

涼風ならぬ一陣の凄風、三人のひっさげ刀にメラメラと赤暗い灯影を揺がした出会い頭――とんとんとんと柔かい女の足音、部屋の前にとまって両手をついた。