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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

さだが振向いて彼を見た。

「威しだと思うと間違うぞ、おれにはきさまを斬っていい理由があるんだ」小五郎は刀の柄に手をかけた、「おれは不義の証拠をつかんでいる、不義者を成敗するのは武家の作法だ、さあ、――出るなら出てみろ」

玄関の向うへ駕籠がおろされた。

「履物をおくれ」とさだが云った。

陸尺の一人が草履を取って入って来た。さだは式台へおりた。すると小五郎が刀を抜いたので、陸尺は吃驚して外へとびだした。

「さだ、――」小五郎が叫んだ、「斬るぞ」

さだはもういちど彼に振向いた。

「どうぞ」とさだが云った。

小五郎は刀を振上げた。刀がぎらっと光った。さだは草履をはいた。小五郎は振上げた刀の柄へ左手を加え、大上段に構えて式台へおりた。さだはおちついて草履をはき、静かに玄関を出た。

小五郎は棒立ちになっていた。彼の大上段に振上げた刀が、ぎらぎらと光りながらこまかくふるえた。

陸尺が引戸をあけ、さだは駕籠の中へ入った。陸尺は彼女の草履を取り、それから棒に肩をいれた。――小五郎は見ていた。駕籠はあがり、それから静かに門のほうへ出ていった。門を出て、ゆっくりと左に曲り、そうして見えなくなった。