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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

小五郎の腕が力なくさがり、刀の切尖が式台の板へ触れそうになった。

「どうしよう」と彼は呟いた、「どうしよう」

彼は刀を(ぬぐいもかけずに)鞘へおさめた。そのとき道のほうで呶号が聞えた。

千切れるような叫びと呶号の声が――

小五郎は足袋はだしのままとびだした。とびだしていって門の外へ出ると、二十間ばかり向うに駕籠が見えた。その駕籠が殆んど抛りだされ、二人の陸尺が道傍へとびのくのが見えた。陸尺たちは竹藪の中へとび込んだ、駕籠は道の上に斜めに置かれ、そこへ奔馬が突っかけて来た。たてがみを振り乱し泡を噛んだ馬が、狂ったように蹄で大地を叩き、うしろに土埃を引きながら殺到して来て、蹄を駕籠に突っかけた。小五郎は「ああ」といった。

馬は前肢を駕籠に踏み込み、駕籠といっしょに転倒した。濛々と舞い立つ土埃がそれを包んだ。馬はするどく嘶き、二度ばかり四肢をはねあげ、そして起きあがるとともに、もと来たほうへ疾駆していった。――陸尺が道へとびだして来、二人で駕籠を起こそうとした。そこへ小五郎が走っていった。駕籠は潰れていて、起こそうとすると屋根が取れた。

「さだ、ただこ」小五郎が叫んだ。