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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

「そんなことはない」半三郎が呟いた、「眼がどうかしたんだ、ある筈がない」

段平は口をあいて旦那の顔を見た。

「へえ、――」と段平が云った、「すると御謹慎じゃあねえのですか」

「少し黙れ」と半三郎が云った。

段平はへえと云った。へえ黙るべえ、と彼は思った。おらの知ったことじゃねえ、お咎めを受けるのは旦那だ、おらそう云うだけは云っただから、と心の中で呟いた。

――おかしな旦那だ、解せねえひとだ。

布施半三郎は約一と月まえに江戸から移って来た。すぐに段平が雇われ、ずっと世話をしているのだが、勤めにも出ないし、同家中のつきあいもない。こっちから誰かを訪ねるとか、向うから誰か訪ねて来るなどということが絶えてない。また、ずばぬけた無口で、段平が話しかけてもろくすっぽ返事をしないし、用事のほかに話しかけることもない。しかも奇妙なことには、家の柱だとか壁だとか、庭の木だの石だのにはよくものを云う。犬や猫や、小鳥などにも機嫌よく話しかけるのであった。

――彼は謹慎の意味で国詰になったのだ。

午まえに来た柏原図書はそう云った。図書という人は五百石ばかりの国許留守役で、半三郎とは遠縁に当るという。