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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

話によると布施は江戸邸の次席家老、半三郎はその一人息子だそうであるが、剣術と柔術がなみ外れて強く、おまけに癇癪持ちで、いつも喧嘩ばかりして始末におえない。前後五度ばかりも「叱り置」かれたり「謹慎」を命ぜられたりした。

半三郎はそういういざこざを避けるために、庭木いじりや魚釣りを始めた。

――木や石や魚はおれに肚を立てさせない。

彼はそういうのであった。もう二十八にもなるが、縁談が幾らあってもつっぱねるし、役に就かせようとしても承知しない。「私のことは放っといて下さい」というので、三年間の国詰を命ぜられた。謹慎の実がみえたら江戸へ帰らせてやる、というのだそうである。

食事が済むと半三郎は段平を見た。

「なにか云ったか」

「柏原さまがおめえになりました」段平が云った、「今日の午めえに、柏原図書さまがおめえになって、えらくへえ不機嫌のあんべえで、いってえどんなつもりだかって」

「わかった」と半三郎が云った、「それはもう聞いた、同じことを二度云うな」

段平はへえといって黙った。

二日続けて雨が降った。三日めに半三郎は釣りにでかけた。江戸から持って来た竿は三本ある、流したのは安物であるが、中でもっとも調子のいい竿であった。