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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
それからもう五時間余り、何事もなく過去った。今は深夜の一時である。
アア、何という異様な取合せであろう。深窓に育った美少女と悪魔の如き怪盗の奇しき縁。世にも恐ろしき金色の恋。
「アラ!」
不二子が幽かに叫んで、黄金仮面の無表情な顔を見つめた。相手の異様な身動きを感じたからだ。
黄金仮面は、三日月型の唇をそらして、天井を眺め、じっと聞耳を立てている。何か物音がした。ソッと歩き廻る人の足音の様なものだ。彼の鋭い耳が、いち早くそれを聞きつけたのだ。
コンクリートの天井を隔てていても、あたりが余りに静かなので、どんな物音も聞漏らしはしない。
確かに人が歩いている。頭の上の真暗な部屋の中を、物の怪のように歩き廻るものがある。
不二子にもそれが分った。彼女はおびえて、男の金色のマントにすがりつく。黄金仮面は静かにその手をほどいて、スックと立上った。
彼は不二子を椅子に残したまま、部屋を出て、暗闇の階段を音もなく昇り、秘密の出入口から上の廊下に出た。
地上には月が出ていた。その光が窓から忍入って、部屋部屋をほの白く見せている。
黄金仮面は、足音を忍ばせて、それと覚しき部屋の、ドアの前に立止った。