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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

「アラ!」

思わず漏れる恐怖の声。

不思議なことには、恋人の手触りがまるで違うのだ。

恋人同志というものは、顔や声ばかりでなく、身体全体のどんな微妙な隅々までも知り合っているものだが、その恋人の身体が、まるで別人の様に違って感じられるのは、どうしたというのであろう。

「マア、あなたは一体誰です。誰です」

彼女はクッションの隅へ、出来る丈け身を引いて、真青な顔で黄金仮面を見つめたまま、甲高い震え声で尋ねた。

金色の男は不気味に黙り込んでいた。ゾッとする程不表情な仮面の、糸より細い両眼が、じっと不二子さんの顔に注がれている。三日月型の口がニヤニヤと笑っている。

「早く、早く顔を見せて。……安心させて。……私、怖い!」

不二子さんが叫び続けるので、黄金仮面はやっと口を開いた。

「そんなに僕の顔が見たいのですか」

違う違う。決してあの人の声ではない。

「ヒイ……」

と云う恐怖の叫声。令嬢は袖で顔を隠したまま、猫の前の鼠の様に、もう身動きさえ出来ないのだ。

「何も怖がることはありません。僕はあなたの味方です。あなたを恐ろしい悪魔の手から救い出して上げたのです」

男は落ちついた声で云いながら、金色の仮面をはずした。