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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
ある日食堂から自室へ取寄せたコーヒーの味が変だったので、一口飲んだばかりで、検べて見ると、毒薬が調合してあることが分った。コーヒーを運んで来たボーイは、一度も見たことのない男であった。しかも、その男は、アパートの雇人ではなくて、その日だけボーイの服装をしてまぎれ込んでいたものと知れた。
それ以来アパート内に私服刑事が入込んで、警戒を厳重にしたので、二度とその様なことは起らなかったけれど、往来に面した窓から、ソッと覗いて見ると、夜など、異様な人影が、建物の前をウロウロしていることが屡々あった。
賊は明かに明智を殺そうとしている。先ずこの邪魔者を取除いた上、ゆるゆる次の犯罪に取りかかる計画に相違ない。
明智ともあろうものが、なぜかこの迫害に対しては極度に臆病であった。彼は殆ど外出しないばかりか、自室のドアには内部から錠をおろし、三度の食事の外は、アパートの廊下にさえ姿を見せなかった。
彼の綿密な注意は、郵便物にまで行届いた。返信用の封筒や切手は、皆海綿を用いて、決して口で嘗める様なことはしなかった。小包は凡てボーイに開かせ、何の危険な仕掛けもないことを確めて受取った。