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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
閉じていた目を、毛布の中で開いて見ると、荒い網目を通して、早朝の薄白い光が感じられた。
アア、とうとう夜が明けたのだ。もう大丈夫だ。賊共はとっくにどこかへ立去ってしまったに違いない。
それでもまだ、とつおいつ躊躇したあとで、絹枝さんは毛布の中から、じりじりと、動くか動かぬか分らぬ速度で、右手を電鈴の方へ伸ばして行った。毛布をかぶったままでも、それのある場所は空んじているのだ。
間もなく、指先が、冷い押釦に触ったので、彼女は力をこめてそれを押えると、そのまま指を離さないで、じっとしていた。
聞えぬけれど、母屋の台所で、電鈴が危急を告げる様に、いつまでも鳴りつづけているに相違ない。
「アア、助かった。今に女中か爺やか、誰かが駈けつけて呉れるに違いない」
と思うと、絹枝さんは蘇生した様な気がした。毛布から顔を出して、あたりの様子を眺める元気が出た。
夜明けの幽かな光が、ブラインドをおろした窓を通して、部屋の中へ忍び入り、電燈の光と混り合っていた。凡ての物体が、霧を隔てて眺める様な感じである。
先ずアトリエとの境のドアへ目をやると、ドアは何事もなかった様にとざしたままだ。