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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
「どこへ行ったのかしら、きっと着換の寝間着を取りに行ったのでしょう」
と心待ちに待っていても、小雪はなかなか帰って来ぬ。
耳をすますと、しんと静まり反った、夜の中に、幽かに、幽かに、あるかなきかに聞えて来る、裏山の夜鳥の声。姫は湯の中ながら、ゾッと鳥肌立つ思いで、おびえた目は自から庭に開いた窓に注がれる。その曇りガラスの扉の外に、ソッと忍びよる人の足音さえ聞える様な気がするのだ。
浴槽を出るのはおろか、湯の中で身体を動かすことさえ憚られ、破れる様に高鳴る胸を押えて、じっと身をすくめていると、アア、何ということだ、その窓の扉が、ひとりでに、一分ずつ一分ずつ、じりじりと開いて行くではないか。
幻覚だ。でなければ、悪夢を見ているのだ。夢なら覚めよと祈ったが、覚めるどころか、扉の隙間は見る見る拡がって、その向うから、吹き込む冷かな夜気と共に、真黒な夜がバアと覗いている。
姫は身動きは勿論、喉がふさがって、声を立てる気力もない。だが、目丈けは、目に見えぬ糸で引張られている様に、扉の隙間に固定して動かぬのだ。
アア、今にも、今にも、あの真黒な隙間から、無表情な金色の顔が、覗くのだ。