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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
鎧武者といっても、生人形ではない。鎧櫃の上に、ドッカと腰かけた形に飾ってある、中味はがらんどうの陳列品だ。黄金仮面の小雪は、その鎧櫃に倒れる様に凭れかかっていた。早鐘の動悸は静めようとて静まるものではない。身体全体が、恐ろしい耳鳴りに調子を合わせて、ドキンドキンと揺れている。
不思議な静寂、ひどい耳鳴りの為に、凡ての物音が消されるのか、屋外の人々は、遠く遠く立去ってしまったかの如く、何の気配も聞えては来ぬ。空漠たる虚空に、無人の美術館だけが、ポッツリと浮んでいる感じである。
その時、何とも形容出来ない変挺なことが起った。
彼女の動悸の外に、もう一つ別の調子の皷動が、身近かに脈うっていることを感じたのだ。ドクドクドク……と彼女の早い皷動、その間を縫って、ゴクン、ゴクンと確りした非常に遅い皷動が、どこからか伝わって来る。
思わずゾッとして、注意をそれに集中すると、分った。分った。その動悸は彼女の指先から伝わって来るのだ。その指先は、櫃の上の鎧武者のお尻に触っている。すると、この鎧武者には、血が通っているのかしら。
鎧の中には、洋服屋の陳列器みたいな、木の棒が立ててある切りだが、そのがらんどうの鎧がどうしてこんなに脈打っているのだろう。