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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

覚えず――

たじたじと富士に圧されつ凍る息

毛無山脈は、御山の裾曲に盤石座を構え、富士の河谷は寒煙を燻じ、山南に退って愛鷹、箱根が、うやうやしく膝まずけば、山陰に侍して秩父連山は、銀の屏障を立て廻す。

しかし、御山の姿は、なかなかしじゅう拝めるというわけにはゆかぬ。私は筆をおいて、拙ない自作を前に、溜息を吐いていることしばしば。もとより、当時私の手に負える題目ならず。富士は年来の宿願として、軽々に手を下せず、ここに大正六年を迎えんとして、ようやくその機が動き、まず川舟で身延へ。そこから表山通りに、この地を訪ねた。あのかつて、笊ガ岳登山の際の、強い印象が縁で。(拙作「冬の白峯山脈彷徨」の中にその記事あり、前著「山岳渇仰」に収む)

七面山の不二の挿図

しかもこの大観には、今さらのごとく驚嘆。だが血気にまかせ、成敗は知らず、やれるところまで――と健気にも決意した私。あたかもよし、この景勝の籠り堂が、堂守夫婦きり、冬はたいていがら空きが例、と聞くや、これぞ天の与えと、事情を述べて、借用かたを申し入れる。――本堂さえ承知なら……ただこんな処で、何もおかまいはできぬが……と、いささか意外そうな面もちで、堂守の返答。