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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
五 大蓮華登山
ここから間近く登れる高山には、東方信州界いに大蓮華諸峯があり、西に毛勝、劔岳、立山などの連山がある。いずれもこの深い谷底から、一気に二千五、六百メートルを奔騰した、ただちに激しさを具象せしめたような、他の山脈に類を見ない、険山ぞろいである。
五 大蓮華登山――祖母谷・硫黄沢――
八月の初め、私はここから大蓮華(白馬岳)に登った。案内には、宿の年寄りたちのめがねで「助まがよかろう……」というので、助七(まはさんというほどの意らしい)と呼ぶ音沢の老猟師を頼んだ。彼はまったく、黒部谷の「生きた絵図」とでもいうべき人間だった。それにもう一人荷担ぎの男を連れて、三人で出かけた。天気はずいぶん続いたあとだが、やはり雨気もない朗らかな朝開けだ。上流さして左岸の林道を進めば、胸のひろがるような、力が余って、体じゅうにひしめくような、山登り――という一つの大きな仕事――の初めの気構えというものは、いつもながら瑞々しい限りだ。「かがり」(越中特有の、繩を荒目の網にかがって作った一種のかます)に詰めこんだ雑品を、かさ高に背負った山人たち、その一と足、一と足、重々しく踏みしめて行く頼もしい足跡を、奔逸しようとする気力を抑え抑えして、ついて行く。