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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
助七一人が頼りだ。まず中ノ谷を指して、一歩下ると一歩温かい。ふり仰ぐと、雨を残して黒光りする巨岩の、その庇なりに張り出した下蔭から、岩燕の一と群れがぱっと、煙でも吹き出すように散るかと見れば、閃々と空に乱れては、また吸われるごとく舞い戻る。
岩つばめの宿の挿図
物に沁み入るような陽光が射してきて、湿っぽい身の廻りが蒸気を吐くので、かえって悪寒を覚える。ここに谷をさえぎる一物がある。頭から皮肉をずり剥がれた、赤裸かの奇峯だ。どこか病的な、血生ま臭い、化け物めいた姿である。その裾のあたりが、荒れて瀑をなしているために、この谷は下ることができないと助七は言う。それで、彼が白髪山と呼んでいる、※(「王+扮のつくり」、第3水準1-87-86)岩の曝れて怪しく光る鑓ガ岳――その裏尾根を乗り越えて、さらに硫黄沢の源頭へと降り込む。その途上だ、雪と偃松と若草と、そして紫の土と、それらにとりまかれて清らかな小池沼が、そちこち点々と布置された――なんとなく侵しがたい気のする、ことさら尊い神苑とでも言いたい感じの強いところを、幾箇所か通り抜ける。草さえ一本一本数えられてあるかの観があり、草鞋の痕がいかにも狼籍で、許しがたい冒涜のわざに思われる。