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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
林を抜けると、一軒の小屋がある。蚤が多いから、ちかよらぬように、と助七から警告される。鉱山へ働きに行く人たちの定宿だという。ただし無人。さきほど林道との追分けに、古草鞋が山をなしていたのも、この人たちのものだった。
実際この道では、いつもどこかで、彼らに会わないことはないくらい、上るもの下るものが絶えぬ。川しもの音沢、内山はもとより、山崎や舟見、或いはもっと遠方からも、隊を組んで稼ぎにやってくる。そして盆だとか、祭礼だとかいう時には村へ下りて、それが済むと又登る、といった風だとの事だ。たいてい男だが、女も多少は見かける。男でも、まだ子供じみた、色白の、キャシャな体つきのも交っていて、そういうのは、ことに痛々しい感じを起させる。みんな鞄やら、行李やら、かがりやら、いろいろな荷物をかさ高に背負って、初めての手合いも多いと見え、――まだヤマは遠いかネ、などと、恐る恐る助七たちに聞いているのもあった。心なしに、幾百年の巨樹の露を浴び、常住に消えもやらぬ高根の雪を踏んで、――そして唯ひと筋に、あの鉱山さして、苦しい労役を求めに行く……
北ノ谷と中ノ谷とが、小黒部本流(与左右衛門谷)と落合うあたりから、道は水について、脚にひとしおの傾斜を感ずる。