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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

伊勢屋という紙問屋はあった。あるじの名は喜兵衛、妻女は二年まえに亡くなっていたし、十七になる息子は政吉という。そこまでは合っていたが、肝心の娘のことが違っていた。伊勢屋の娘は名をおいせといい、日本橋槇町の吉野屋という、糸綿問屋へ嫁にいっている。もちろん現在も吉野屋にいるし、懐妊ちゅうで、来月が産み月だ、ということであった。

――お倫という女を知らないか。

青木千之助はそう訊いた。お倫の人柄や、現在の住居や、茶の師匠の看板を出していることなど、できるだけ詳しく訊いてみたが、伊勢屋は思い当る者はないと答えた。

――しかし、向うではこの家のことをよく知っているらしいから、娘さんの友達とか、近所の者でこれと思う娘がある筈だが。

――うちのおいせは引込み思案な子で、友達も二、三人しかいませんでしたし、近所にそれらしい娘がいたという覚えもないように思います。

――二、三人いたという友達はどうだ。

青木千之助はそう問い進めた。

――さようでございますな。

喜兵衛はちょっと考えてから答えた。

――二人はこの町内の娘で、一人は婿を取りましたし、一人はまだ家におります、もう一人、おいせといちばん仲の良かった娘がいましたが、それは今年の正月に亡くなってしまいました。