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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

殊に、戦えばいつも岐阜を出るので、治下の民心の如何は、彼自身の健康ほど、常々細心にこころを労っていた。

「――断っておくが、わしはこの通り、僧門の身。わしの眸は弥陀の眸だ。あの国とこの国、西と東、東と南、諸処方々で戦っているらしいが、仏者には敵味方はない。ただ気のどくなおまえ方に慈悲の手を垂れよと、弥陀如来の仰せをうけているまでだ」

法師は、喋舌りぬいている。さすが敵地にはいって民心を攪乱そうとするほどの者だけあって、不敵な面だましいと雄弁を持っている。――ともすれば、聞き入っている民衆は、その詭弁を、ほんとうのものと、魅せられかけているふうだった。

「このぶんで行くと、ことしも合戦、来年も合戦、未来無限、戦は熄むまい。わしは予言する。この夏ごろは、大疫病が流行る。秋は飢饉となろう。さあおまえ方、どうして生きる」

背なか合わせに、演者の三方にわかれて、人なかを見張っている同行の僧は、演者の法師が、自己の弁に酔って、次第に露骨な煽動を放って来たので、時折、うしろを振り向き、

「どうか、みなの衆に、ありがたいお札をあげてください。疫病除けのおまもりを、ここに寄った仏縁の方々に、お頒けしてあげてください」