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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁
お市の方
ここへ来てからの信長は、
「小谷の城は落ちるのを待て」
と、いったふうに、至極おっとり構えていた。
電光石火の陥滅を与えた越前の戦後の経営も、彼は、一乗ヶ谷の余煙がまだのぼっているうちに、体だけを、急速にここへ引っ返して、ここから何くれとなく指令を出していたほどだった。
越前の降将、前波吉継を、豊原の城へおき、同じく朝倉景鏡に、大野城の守護を命じ、富田弥六郎に府中の城を――と、いったふうに、旧領の事情に精通している旧将を多く用い、その目附として明智十兵衛光秀だけを抑えに残して来たのである。
ここには、光秀以上、適任なものはあるまい。かつて浪々の不遇時代に、朝倉家の家臣となり、一乗ヶ谷の城下にも住んでいたことのある光秀は――そして当時家中の人々から冷眼視されて、ここでも世間へ泛かび出せなかった過去を持つ光秀は――いま、まったく反対な立場になって、旧朝倉の一族を監視した。多少の得意とさまざまな感慨が、光秀の胸を往来したことであろう。
それに、光秀の才識は、事ごとにみとめられて、いまや彼は、信長の寵臣のひとりだった。
人を見るに人いちばい明敏な彼は、ここ数年の戦や、日々の奉公によって、信長というひとの性格もよくのみこんでいた。