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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁
琴線
でござる。半兵衛を病人あつかいになさるるは、戦場では、この後御無用にねがいまする」
「なるほど。ムム、なるほど」
藤吉郎は、一茎の蛍草を摘んで、指先に弄んでいた。花に寄せて、誰を偲んでいるのだろうか。母か、寧子か。――彼の多感多情は、彼の軍師竹中半兵衛が、誰よりもよく知っていた。
琴線
半兵衛の眼に気づかれては、見ッともない気でもしたのだろうか、藤吉郎は、弄んでいた蛍草を、指頭からぽんと捨てて、
「大戦が迫ったな」
「迫りました」
しばらく、視野を敵地へ向けたまま佇んでいたが、また何を思い出したか、
「於ゆうは、もう岐阜へ着いたろうか」
と、呟いた。
「長浜からでは、まだまだ岐阜へは帰り着きません」
「途中、無事であればよい。――女子の旅、わけて戦乱の中だ、気にかかるの」
半兵衛は、答えなかった。
於ゆうは、自分の妹であるばかりでなく、大戦を前にして、殿の煩悩にも困ったものだと、苦々しく思えたからであろう。
その於ゆうは、長浜から帰したとある。知らぬ者が聞けば、陣中へ女子を伴ったと誹られるにちがいない。
――が、そんな事情ではなかったのである。さもなければ半兵衛が許すはずはない。