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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

ここの土を措いて他国に骨を埋める地はないのである。

信長は、使いの返事をうけて、

「困った逸り者」

と、つぶやいたが、そのためか、叡山の事が終ると、例の足早で、疾風のごとく、岐阜へ帰っていた。

その早さには、信玄もまた舌打ちをもらしたろう。さすがに彼も機を見ることは敏であるから、

「また時もある」

と、甲山の彼方へ旗をひそめてしまった。

こういう険悪な空あいのうちに年は暮れて、元亀三年の春は迎えられた。

その春。

熱田神宮では、本殿そのほか、大修理の工事にかかっていた。

応仁の乱このかた、めずらしい鑿の音だった。

地方民も豪族も、長いあいだの不安と暗黒に漂って来て、各※(二の字点、1-2-22)が自分たちの営みにだけ追われていたかたちだった。

荒れきった神宮の森に、この春、鑿の音を聞くと、かれらは、耳をそばだてて、

「どなた様の御寄進であろう。さても御奇特な」

と、にわかにそこの勿体なさに眼をみはった。

「――年の暮、熱田の祠官岡部又右衛門どのを岐阜へお召しになって、信長様が、私財をもって、お命じなされたものだそうな」

こう実相が伝わると、

「あの、信長様がか?」