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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

また疑うのあまり、ひしひしと、城塁へ迫って、口合戦をし始めていたりした。およそ夕刻頃には、すでに一触即発の危機は醸されていたのである。

――これまで。

と、信長も思いきった。

そしてついに、総がかりの令を、発したのであった。

だが、そう決したのちも、藤吉郎を犠牲にしたかと考えると、痛恨にたえなかった。

その痛恨は、併せて、お市の方のうえにかかった。――あれほど、出城の機会を与えてやったのにと、彼女の貞節を、彼の肉親的な感情では、どうしても称えることができなかった。

ところへ、黒おどしの具足をつけた一名の若者が、ひっ抱えている槍の穂さきが、ほとんど、信長の身に触れるくらい、向う見ずに駈けて来て、

「あッ。殿ッ」

と、急に立ちどまって、息を喘いだ。

「下におれッ」

「槍をうしろへ置かんかッ」

信長の周囲から睨めつけられて、若者は、べたッと大地に坐った。

「ただ今、主人藤吉郎が、ここへ参りまする。おつつがなく、城中を出られて……」

「なに藤吉郎が、もどって参ったと」

「はッ。はいッ」

「ひとりでか」

信長の訊ねようは急だった。

若者は、はじめて気がついたように、自分の口不足を、あわてて云い足した。