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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁
「あの勢いでは、羽柴勢が、これへ来るも、遅くはないぞ」
「午までには」
「何の、午を待つものか」
臆病風は臆病風をさそい、ついに恐怖状態をここに巻き起していた。敵は、一万もあろうといえば、いや二万だ、何の、あのような猛威では三万も来たにちがいないと、自身の恐怖に輪をかけて、他を同ぜしめなければ気がすまないようになり、また、そのうちに何者かが、
「前田父子も裏切りして、秀吉と共に襲せて来る」
などという虚説を、真しやかに触れまわる者も出て来た。
こう極端になってはもう物頭たちの抑えもきかない。帷幕からの厳命も、部将に委かせておいたのでは、到底収拾はつくまいと、勝家は思い極めたものとみえる。
彼はついに寺門から馬にまたがって出た。そして自身、狐塚附近を巡り、陣々の物頭たちへ、口ずから呶鳴った。
「故なく陣地を離れる者は、仮借なく斬れ。卑劣なる脱走者は、鉄砲で追い撃ちにせよ。浮説虚言を放ち、味方にして味方の内に、士気を挫くがごとき振舞いある者は、即座に、突き殺して見せしめとせい」
命は厳、声は峻烈を極めた。
が、こういう秋霜の気が活かされるのも、時にこそよれで――時すでに遅しのうらみは濃い。