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がくせいものがたり

楽聖物語

野村 あらえびす

線上閱讀野村 あらえびす《楽聖物語(がくせいものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,667 字 · 381 頁

青空文庫

第九の救い

。

ワグナーは浪漫派の芸術に出発した。後年彼の思想はドイツの民族主義に性根を据え、高度の理想主義に発展したが、若かりし頃のワグナーは、当時の改革思想の影響を受けて、新しきものへと猪突したのはまたやむを得ないことである。

第九の救い

リガの指揮者を追われたワグナーは、自分の芸術の民衆への直接効果を求めて、情熱の命ずるままにパリへと走った。が、パリは決して一無名の青年作曲家を、大手を拡げて受け入れるほど寛大ではなく、その期待と希望はことごとに外れてしまった。狡猾な競争者と、意地の悪い劇場と、無理解な出版者は、哀れな異邦の一青年作曲家を飢餓の巷に放り出したのである。骨にも沁む失望と餓えとは、ワグナーを滅茶滅茶にさいなみ続けた。ワグナーの穿いている靴には底がなく、髪を刈る小銭さえ持っていないような、骨の髄に沁む幻滅の悲哀を嘗め尽して、つくづく夢みるのは、故郷ドイツの天地、――その民衆と芸術である。が日一日と背に迫る餓えは、夢や悔恨で払い退ける由はない。ワグナーにとって、この上の可能なことは、「死ぬか泥棒をするか」であったと言われる。

絶望と自棄とにすっかり自信を失ってしまったワグナーは、ある日コンセルヴァトワールでアベネックの指揮するベートーヴェンの合唱付シンフォニー「第九」