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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《猫の蚤とり武士(ねこののみとりぶし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 頁

青空文庫

ワーッという声がまず起こり、

「いかにも藩侯ご愛孫じゃ!」

「萩丸様に相違ない!」

「誘拐されて藩中動揺、ことごとく憂愁にとらえられていたが、さてはこいつらが誘拐したのか」

「どっちにいたしても一大事! 萩丸様に異変あっては、我らは生きてはいられない」

「囚人などは問題でない」

「退け! 後へ! ……静まれ静まれ!」

と、紀州藩士たちは口々に叫び、ジタジタと残念そうに後へ退いた。

「さあこの隙に貴殿方は、人形箱の後を追い!」

兵庫の言葉を背後に聞き、

「行け! 取り返せ!」

と義党の面々、三十郎の一味の後を、真一文字に追っかけたが、南無三宝機を失した! 三十郎もその一味も、どこへ行ったものか見えなくなっていた。

その翌日のことであった。

犬帰村という貧弱な村の、博労佐治平のあばら家の一間に、刃三十郎と梶子とが、睨み合うようにして坐っていた。

「まだご機嫌直りませぬかな」

そう云った三十郎の満面には、得意と皮肉とがただよっていた。

想いをかけたこの女を、とうとう今こそ手に入れてしまった。焼いて食おうと煮て食おうと、こっちの自由勝手になる。

それにしても利発聡明で、大胆不敵で見識高かった女が――この梶子が何んとまア、今はすっかり悄気ていることか!