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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《猫の蚤とり武士(ねこののみとりぶし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 頁

青空文庫

立ち聞く三十郎

それは刃三十郎であった。

三十郎の姿はそれから間もなく、兵庫の家の裏庭にある、八ツ手の茂みの暗い蔭に、巨大な蟇のようにかしこまって見えた。

夜になっても暑いからであろう、兵庫の家では雨戸もとざさず、裏庭に向けて障子さえも開け、燈火の光を射し出させていた。

座敷には人が三人いた。

兵庫と民弥と菊女とであった。

三十郎は思わず唸った。

萩丸を浅草で誘拐した女を、発見することが出来たからである。

それにもう一つ入谷田圃で、自分と刃を交えた武士を、そこに見ることが出来たからである。

(そうか、みんな徒党だったのか)

三十郎は思わず唸った。

(やはりつけて来ていいことをした)

――で、話を聞き澄ました。

立ち聞く三十郎

距離がはなれているがために、三人の話はききにくかった。

さりとてこれ以上接近しては、こっちが見あらわされる恐れがある。――こう思って三十郎はただひたすら、聞き耳を立てて静まっていた。

彼が民弥をつけて来たのは、萩丸誘拐の今度の事件に、彼がたしかに関係があると、そう思われてならなかったので、彼の動静に留意しよう、彼の行為を探り知ろう、それには彼の住居附近に、立ち廻ってみる必要があると、こう思ったので彼の住居の、板倉周防守様の下屋敷附近に、今夜やって来て逍遙していたところ、民弥が屋敷からあらわれた。