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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《猫の蚤とり武士(ねこののみとりぶし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 頁

青空文庫

愛欲乱麻

「戯言今後は申しますまいよ」

兵庫にしてからがこの菊女が、自分を愛しているということを、ひそかに知っているのであった。そうして自分もこの菊女を、憎からず思っているのでもあった。

その菊女を党のため、同志を助けるためにとはいえ、そんな仕事にたずさわらせることを、快よく思ってもいないのであった。

数日経った日の夕暮れであったが、貴公子風の若侍が、家来を連れて浅草境内の、雑踏の巷を歩いていた。

愛欲乱麻

それは紀州頼宣卿の愛孫、萩丸殿に他ならなかった。

もうこの時代から浅草境内は、盛り場として栄えてい、水茶屋、見世物、香具師、楊枝店、そんなものが客を呼んでいた。

「いつもながらここは賑やかだのう」

帷子に薄羽織長目の袴、編笠を冠った萩丸は、近習の杉本伊織へ云った。

「いつもお賑やかにござります」

伊織は二十一歳で、萩丸のよき遊び相手であった。

「わしにとっては久しぶりの出府じゃ、見るもの聞くもの珍らしいぞ」

「は、さようにござりましょうとも」

「祖父様(頼宣卿)この頃お体衰え、自然お気象も弱られたらしく、ずっと国表にご座あって、わしをどこへも手放そうとなされぬ。それを無理無理にわしは願うて、江戸見物にやって来たのだが、来て見ると国へなど帰りとうない」