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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

六

そうしたら別個の運命が、自ら開拓されるだろう。

赤帆の船は岸へ着いた。高坂甚太郎は上陸した。春の朝の露を踏み、新しい旅へ発足した。

樹海の方から聞こえて来たのは、例の鳥刺の歌であった。

いざ鳥刺が参って候

………………………

だがその声もやがて消えた。

ようやく朝日は昼の日と変り、草木の露が消えはじめた。

そうして本栖湖は水鳥以外、動くもののない静けさとなった。

六

「俺は昔を思い出した。俺は甲府へ行って見たくなった」

仮面の城主は呟いた。

夜はまだ宵ではあったけれど、纐纈城内は静まり返り、物音一つ聞こえない。賓客達も寝たらしい。

ただ一基の灯火が、部屋の中に灯っていた。

窓から舞い込んだ白い蛾が、灯火の射さない暗い床へ、クッキリと斑点を印けていた。と、それがひらひらと舞い、宙で突然静止した。それは不思議でも何んでもなかった。そこに黒い卓があったからであった。

卓の向こう側に城主がいた。牀几に腰をかけていた。鉛色の仮面の横顔と、纐纈布で作られた、深紅の陣羽織の肩の上で、テラテラ灯火に光っているのが、畸形な彫刻でも見るようであった。

神聖とは類例ない謂いであった。