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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁
彼の持っている悪病は、この世に類例のないものであった。で、神聖な病気であった。神がいつも孤独のように、彼もいつも孤独であった。
孤独の彼を喜ばせたのは、高坂甚太郎の来訪で、彼はそのため忘れていた血縁の親しみを感じることが出来た。で、彼は甚太郎へ、城の掟を破ってまで、自由自在の生活をさせた。そうしていつも物蔭から、その行動を窺った。
甚太郎の奔放な行動から、彼は彼の少年時代の、奔放な生活を思い出した。甚太郎の唄う歌声から、彼は彼の少年時代の頃、よく唄った流行唄を思い出した。
憎人主義者の彼の心へも、いつとも知れず人情の味が、こっそり忍び込んで来るようになった。
で彼はその日頃、幸福でさえあったのである。
だがその甚太郎は立ち去った。今日の払暁に立ち去った。で再び荒涼たる孤独が、城主の心へ甦って来た。近くに愛すべき何物もない。恐らく近い将来においても、彼を慰めるいかなるものも、訪問しては来ないだろう。孤独。寂寥。孤独。寂寥。永遠に続くに相違ない。
なまじ慰めを見付けたのが、今の彼には苦痛であった。
「俺は昔を思い出した。俺は甲府へ行って見たくなった」
――衷心からの憧憬であった。