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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《綺堂むかし語り(きどうむかしがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 183,656 字 · 363 頁
芸妓
彼は鉄扇を持っていた。悠々と蒲団の上にすわって、角細工の骸骨を根付にした煙草入れを取り出した。彼は煙りを強く吹きながら、帳場に働くおてつの白い横顔を眺めた。そうして、低い声で頼山陽の詩を吟じた。
町の女房らしい二人連れが日傘を持ってはいって来た。かれらも煙草入れを取り出して、鉄漿を着けた口から白い煙りを軽く吹いた。山の手へ上って来るのはなかなかくたびれると云った。帰りには平河の天神さまへも参詣して行こうと云った。
おてつと大きく書かれた番茶茶碗は、これらの人々の前に置かれた。調練場の方ではどッと云う鬨の声が揚がった。焙烙調練が始まったらしい。
わたしは巻煙草を喫みながら、椅子に寄りかかって、今この茶碗を眺めている。かつてこの茶碗に唇を触れた武士も町人も美人も、皆それぞれの運命に従って、落着く所へ落着いてしまったのであろう。
芸妓
有名なおてつ牡丹餅の店が私の町内の角に存していたころ、その頃の元園町には料理屋も待合も貸席もあった。元園町と接近した麹町四丁目には芸妓屋もあった。わたしが名を覚えているのは、玉吉、小浪などという芸妓で、小浪は死んだ。玉吉は吉原に巣を替えたとか聞いた。