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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

主君信長様のおこころを傷ませたくないからである」

「……わかった」

善性坊は、縄目のまま、がくと前へ体を曲げて、神妙にいった。

「いかにも、こよいの横山攻めは、われわれの私謀に相違なく、主君はあずかり知らぬことだった。この上は、善性坊の首を刎ねて、主人長政が和議の誓文をやぶったわけでない旨を、織田家へも明らかにお告げねがいたい」

「さすがは、よくお弁え下すった。其許の首は其許へ、しばらくおあずけしておこう。――彦右衛門、彦右衛門」

「はッ」

「宮部善性坊が身は、おぬしに渡しておく。捕虜だからといって、粗略にするな」

「承知いたしました」

蜂須賀彦右衛門が、縄じりを取って立ちかけると、藤吉郎は、至極簡単に、

「解いてやれ」

と、いった。

縄を解かれた捕虜の影は、すぐ多勢の影の中に没して行った。

床几を払って、藤吉郎も丘を降りた。そこから近い横山城の城門へ、やがて主従一兵ものこらずかくれた。

焼き払われた城門は、あくる日、もう新たに普請していた。防禦は一日も怠れない現状にある。北境の雪でも解けはじめれば、重畳たる山岳をこえて、何が越えてくるか。

鉄砲をみがき、槍を拭い、戦のない時の戦の備えこそ、武士が同時に心をも養っている時だった。