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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

――が、これを高い所から俯瞰すれば、姉川の一水を挟んで、両軍はちょうど卍形に入りみだれていた。信長はさすがに冷静な眼でそう見ていた。藤吉郎もまた、そう大観していた。そして、

「この一瞬だな」

と、直感した。

勝ち。――負け。

そのわかれ目は微妙な一瞬だ。信長は、携えていた杖で大地を叩きながら叱咤した。

「三河殿の人数が遠く突き入った。あの一点を、孤立さすなッ。――誰ぞ、三河殿の苦戦を救いに向えッ」

だが、左右の備えに、もうその余力は残していない。信長の声も、いたずらに嗄れるばかりだった。

すると、北岸の一叢の林から、真っ白な水煙を蹴立って、乱軍の中をわき目もふらず直線に対岸へ上がって行った一隊がある。――信長の号令が届いたのではなく、信長と同じ大所へ眼をつけた藤吉郎の木下隊であった。その旗じるしと金瓢の行くのを見て、

「あッ。よしッ! ……。藤吉郎が駈けおった」

信長は、眼に流れ入る汗を、籠手で横にこすりながら、傍らの小姓たちへ、

「かかる折は、またとない。そちたちも、河中へ行って思いのまま働いてみい」

と、許した。

森蘭丸その他、まだ年少な者たちまで、皆、われおくれじと敵を目がけて駈け出した。