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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 頁
ましてやこの時節、腐敗した物などお客にすすめられようか。取り捨ていッ、取り捨ていッ、腐った魚などは……」
不意ではあるし、思いがけない人のすさまじい叱言に、饗膳方の小役人たちが、顛倒狼狽の状は、気のどくなほどであった。
材料の蒐集やら調度食器の配合などに頭を使って、このところ幾日かはほとんど寝る間もなく家中や組の者を督してきょうもここに懸命に努めていた光秀は、信長の声に、初めは耳を疑っていたが、家臣から、
「お成りです」
と聞くや、びっくりして君前に出で、低頭平伏して、ここに満ちている異臭も決して魚類が古いためではないことなど説明し出した。
「云い訳はよせ」
と信長は抑えて、
「一切、取り捨ててしまえ。こよいの御馳走は他の物をもってする」
と、耳もかさずに、帰ってしまった。そのあと、光秀がまだ茫然と腰が抜けたように坐っているところへ、使者が来て、
其方儀、中国表へ、先陣として出勢すべきの旨、仰せ出さる、則、即刻御暇被下もの也
という状一通が手渡された。
珍膳美肴を山と集めて、こよい大賓の盛燭に照らさるべく、すでにあらかた調えられていた馳走の数々から木具魚台までが、その晩、明智家の家臣達の手によって裏門から運び出され、まるで芥か犬猫の死骸でも棄てるように、どぼんどぼん、安土の濠へ投げ棄てられていた。