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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
「勘定場から御家老へだと」と一人が眼をそばめて訊き返した、「そんな順序は聞いたこともないが、どういう用件だ」
「それは云えません」
「そこもとの名は」と他の一人が訊いた。
玄四郎は自分の名を告げた。
「おかしいですね」とその侍が云った、「そういう順はこれまでに例がないし、なにかの間違いではありませんか」
「では問い合わせて下さい」玄四郎は眼の隅であたりを見ながら云った、「支配の間違いかもしれないが私も子供の使いではなし、だめだと云われただけで戻るわけにはまいりません」
「ばかなことを云う男だな」
「いや、ちょっと」とあとの侍が制した、「たしかにそれはそうだ、なにかのゆき違いかもしれないから問い合わせよう、そこもとは此処で待っていて下さい」
「田村でもやったらいいだろう」
「おれがいって来る」
そしてその穏やかな侍は、廊下を右へと曲っていった。残った侍は玄四郎を疑わしげに見やりながら、口番の部屋へ戻り、そこにいる三人ばかりの侍たちと、こわ高に雑談を始めた。ちかごろ新参者が多くなって、御家風もよく知らず、お廊下を間違えたり、用もないのにうろうろ迷い歩くやつがある。人増しもいいかげんにしないと困る、などということを、聞えよがしに云っていた。