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ぜにがたへいじとりものひかえ

橋の上の女 ――銭形平次傑作選2

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《橋の上の女 ――銭形平次傑作選2(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 88,573 字 · 178 頁

青空文庫

今夜は少し面白いぞ」

「何があるんです」

「下っ引を三四人狩り集めてくれ。橋場の伊豆屋を取巻くんだ。亥刻(十時)過ぎに外へ出る者をそっと出してやるんだ、その代りしっかり顔を見ておけ」

「ヘエ」

それから日が暮れるまで、平次と八五郎は退屈な時を過しました。そして、暗くなるとともに、もう一度、橋場へ引返したのです。

「ヘエ? また橋場へ行くんで?」

「それも術だよ。あの辺で頑張ってると、夜釣の魚は出て来ない」

「ヘエ?」

橋場へ行くと、伊豆屋へは入らず、裏から廻って、かねて用意したらしい、一艘の艀舟に潜りました。

「八、頭から、その筵を冠れ。少しは埃臭いが、我慢をしろ」

「変な匂いがしますね、親分」

「黙っていろ、舟を少し川の真中へ出して貰うから、物を言っちゃならねえ」

「ヘエ」

それは子刻(十二時)近い時分でした。両岸の灯も消え、吉原通いの猪牙舟の音も絶えて、隅田川は真っ黒に更けて行きます。

「月はないんですね」

「黙っていろ、今晩に限ってお月様は邪魔だ」

「あ、何んか、水の音が?」

「シッ」

二人は息を殺しました、どこからともなく微かに水の音が響きます。

それから暫らくのあいだ、八五郎は生れて初めての長い時間を経験しました。