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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

「よい。泰親が願意、聴きとどけて取らせ申そう。但しこれを仕損じたら彼は重罪じゃ。それらのことも入道より彼にとくと申し含められい」

「早速の御聴許、それがしも共どもにお礼申し上げまする」と、信西も眉を開いて、うやうやしく会釈した。

この問題はまずこれで一段落ちついたので、頼長と信西とは打ち解けていつもの学問の話に移った。そのうちに頼長は少し声を低めてこんなことを言った。

「入道、兄弟牆にせめげども、外その侮りを禦ぐという。今や稀代の悪魔がこの日本に禍いして、世を暗闇の底におとそうとする危急の時節に、兄はとかくに弟を妬んで、ややもすれば敵対の色目を見する。浅ましいことじゃ」

「それも関白殿のたましいに、悪魔めが食い入ったがためかとも存じ申す。われわれがとこう申すは恐れあれど、殿下この頃の御行状は……」

「それ、そのことじゃよ」と、頼長は待ちかねたようにひと膝乗り出した。「あらためて一いち申さずともお身もみな知っていよう。むかしとは違うて驕りには耽らるる、我が威には募らるる、あれが天下の宰相たるべき行状であろうか。兄上が今の心をあらためぬかぎりは、たとい玉藻一人を打ち亡ぼしても、やがて第二の玉藻が現わりょうも知れまい。