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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
建水分の境内は、人で埋まっている。
祈祷も、奉納の申楽も、今日で終るわけだが、相変らず、一滴の雨すらなく、あすも照りらしい夕晴れだった。
「あああの松、あの舞殿」
彼女には、すべてが乙女時代の記憶につながり、なつかしさに、そぞろだった。
「卯木」
と、元成は寄って、人混みの中にうつつない彼女の姿へ。
「いま訊いたら、夜の申楽能には、まだ、よほど間があるそうな。どこぞで休んで、出直そうではないか」
多くの男女も、一とき、石段の方へ、ぞろぞろなだれ去って行く。
それに交じって、ふたりも宮下の村道へ降りた。物売りや掛茶屋などの賑わいは、峰よりは下の方がさかんで、人間臭い暮色が、里人たちに、旱の憂いも忘れさせている。
卯木と元成は、人目だたぬ葭簀がこいを見て入った。――笠もとらず、床几に煮売り皿の物など取って、山田申楽のはじまる時刻を待っていた。
「……すぐにも、兄の正成どのを訪ねて、水分のお屋形へ」
とは、卯木も、途々では言っていたことだが、さて、何となく閾は高いし、折ふし、雨乞い祭りも今日限りと聞いたので、山田小美濃の舞台も見たしと、それを後廻しに、すぐ社へ来てしまったものだった。