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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(九)不死の霊薬
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(九)不死の霊薬(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,106 字 · 292 頁
「母が寝ておりますから」
お春は眼顔で半分歎願しながら、自分の家の門口を離れて、砂浜の方へ二人を誘います。チラリと筵の間から見た中の様子の貧しさ、平次はさすがに強いてとも言い兼ねました。中には六十を越して、中風で身動きもならぬ母親のお辰が、眠るとも覚めるともなく寝ているのでしょう。
「お春さんと言ったね、――あの金の茶釜は、本当に品川沖で兄さんの網に掛ったのかい」
「…………」
「これが一番大事なことなんだ、正直に言ってくれないか」
「兄からは何にも聞きません。――でも、兄はあんな小屋へ、毎日行って、顔をさらすのが辛い様子でした」
「茶釜がなくなってから、兄さんはどうしている?」
「黙って考えてばかりおります、――いつもおっ母さんの相手をして、賑やかな人なんですが」
「それでお前は、心配になって、この八五郎に頼んだんだね」
「え」
非常に深い仔細がありそうですが、十八の娘には、それ以上の事はなんにも解らなかったのです。
「あれ、兄さんが帰って来ました」
娘は手を挙げて、波打際の向うの方を指さしました。
沖の方から小舟を漕いで来た若い漁師が二人、砂の上に舟を引揚げると、その一人は、妹の姿を見付けて、こっちへ歩いて来るのです。