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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九)不死の霊薬

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(九)不死の霊薬(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,106 字 · 292 頁

青空文庫

七

「ちょいと」

髪結のお鶴さんが、屏風から顔を出して小田島老人を呼びました。

「嫁さんはどうしたんだい」

「先ほどから、お見えになりません」

「何?」

一座は騒然として立ち上がりました。頭から被った風呂敷でもかなぐり捨てたように、乱酔が一遍にさめてしまったのです。

「色直しの着付けを済まして、御不浄へいらしったようですが、それっきり見えません」

界隈でよく知られた、名人の髪結、額から右の眼へかけて赤い痣のあるお鶴が、その醜い顔を歪めておろおろしております。

「とうとうやりやがったな」

聟姿の平次、忙しく羽織をかなぐり捨てると、足袋跣のままパッと裏庭へ飛出しました。誰が開けたか、路地へ抜ける木戸はバタバタになって、そこには夜目にもほの白く、贋物ながら、瑁の簪が一本落ちております。

七

平次の活動は、本当に火の出るようでした。六人の花嫁を救い出すために、あらゆる物を賭けてしまった平次は、このうえ失策を重ねるようなことがあれば、死んでも申し訳が立たないことになるのです。

世上の噂、笹野新三郎の督励、それはしばらく我慢するとしてもお静の母親の嘆きは、一刻も見てはいられません。