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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九)不死の霊薬

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(九)不死の霊薬(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,106 字 · 292 頁

青空文庫

妙な事を言い出します。

「なんだって今まで黙っていたんだ。誰だ、その男というのは!」

「すっかり忘れていました。――その男てえのは、名前はわかりませんが、なんでもお茶の水辺の男で――」

「家は知ってるか」

「行ってみたら大抵見当はつきましょう」

「よし、それじゃ案内しろ」

新三郎は、飛立つ思い、旅装束のまま、駕籠を二挺呼んで、驀地にお茶の水へ――。

昌平橋まで来ると、

「ここで降りて歩かなきゃアなりません。駕籠で行っては拙い」

案内者の勇吉がとんでもないことを言い出します。

仕方がないから駕籠を帰して、勇吉を先に立てた新三郎。聖堂の前をダラダラ登って、お茶の水の方へ、その頃は橋はありませんが、眺めの良いところで、数丈の断崖の上へお茶屋が二三軒建ち並んでおります。余談に亙りますが、その後『江戸名所図会』を描いた長谷川雪旦が、ここのお茶屋で風景を写生して、謀反人と間違えられた――などという話の伝わっているところです。

お茶屋といったところで、道端に建った粗末な板屋根で、お茶の水の絶壁数丈の下から、足場を組み上げて張り出した、葭簀張りの涼しい別室が名物。昼はいくらか客もありますが、日が暮れるとサッと店をしまって、婆さんと娘が、菓子箱と緋毛氈を背負い、大薬缶をブラ下げて自分の家へ帰ってしまいます。