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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 143,455 字 · 290 頁

青空文庫

四

八五郎は、子供を元の床の上に置いて、夢中で廊下へ飛出しました。

「大変、お染さん、坊っちゃんが引付けた」

案内知ったお染の部屋の外から、もう、加減もなく声を張り上げるのでした。

四

お雛とお染が、八五郎と一と塊りになって駆け付けたのは、それからほんの三分、――昔の人の言いようを借りて言えば、物の百も数える間がありませんでした。

開いたままの障子から飛込むと、行灯も床もそのままになっておりますが、ツイ今しがたまで、ヒクヒクしながらも生きていたはずの、富太郎の姿が見えないのです。

床は二つとも空っぽ、その辺には、人間を隠すような場所もありません。

「富ちゃん」

「坊っちゃま」

お雛とお染は、血眼になってその辺を探し廻りました。

「あッ」

仏壇の中を覗いていたお染は、蛇にでも噛み付かれたような悲鳴をあげて、飛退きます。

「何だ何だ」

見ると、八五郎も先刻驚かされた鬼女の顔――、行灯を提げて近々と見ると、それは、仏壇の中にはあるまじき、恐ろしい鬼女の面に、髢の毛まで冠せて、位牌の前に据えてあったのです。

「どうしたんだ、大変な騒ぎじゃないか」

その時漸く下の騒ぎを聞きつけたらしい、番頭の友二郎は、少し寝乱れた恰好で、二階から降りて来ました。