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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(六)結納の行方
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(六)結納の行方(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 142,597 字 · 289 頁
たぶん書いてみたが、気がとがめて出さなかったのでしょう。
「こいつは、この男の筆跡に違いないだろうな、番頭さん」
「ヘエ――」
突き付けられた手紙を、老番頭の太兵衛は呆気に取られて眺めておりましたが、やがて手代利吉の書いたものに相違ないことを認めました。
「手前は言い寄って弾かれた意趣返しに、お隣のお京さんを殺しやがったろう、太い野郎だ」
平次はこの造化の傑作を台無しにした冒涜的な男の、ニキビだらけな顔を憎々しく見やりました。まだ二十二三でしょう。魯鈍で脂切って、何ともいいようのない不気味なところのある若者です。
「違いますよ、親分」
「今さら弁解をしても追付くめえ、素直に申上げてお慈悲を願え」
「違います、――そんなわけで殺したんじゃありません、私は、私は――」
利吉はシクシクと泣き出しました。
「何を言やがる。人一人洒落や道楽で殺せるわけはねえ。手前のような馬鹿に見込まれたのが、お京さんの因果だ」
「親分」
「何が気に入らねえ、馬鹿野郎ッ」
「違いますよ、――お嬢さん、たった一と言、何とかおっしゃって下さい、私は、私は」
あらぬ方を見る利吉の視線を追って行くと、物蔭にチラリと白いもの、――長崎屋の娘のお喜多が、そこから凍るような視線を送っているのでした。