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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(六)結納の行方

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(六)結納の行方(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 142,597 字 · 289 頁

青空文庫

「いや、もうそうしてもいられない」

血潮に汚された畳を剥がして、薄縁を敷いた四畳半の上がり框に腰を下ろして、そう言いながらも平次は、腰の煙草入を抜きました。

「そうおっしゃらずに親分さん――、ちょいとでも入って下さいませんか、御町内には馴染はなし、麹町の本家の者は、不人情で寄り付きゃしませんし、お寅が殺されたり、強盗が入ったりした後へ、私はたった一人で、死ぬほど恐ろしい思いをしているんです」

お勢の言葉は満更嘘でもなかったでしょう、華奢な胸を抱いて、こう言う唇が、少し蒼ざめます。

「それはお気の毒だね、泊って貰う人でも頼んだらどうだ」

「それが親分さん、金ずくでも腕ずくでも、人殺しのあった後などへ泊ってくれ手はありゃしません。こんな時は身内の者が欲しいと思いますよ」

平次はいつの間にやら草履を脱がせられて、次の間の長火鉢の前まで引っ張り込まれておりました。女一人で、このような夜を過そうという、美しいお勢に同情する気になったのでしょう。

やがて、銅壺へ一本、ざっと湯掻いて、

「さア、親分、まア一つ召上がれな」

飲まない先から、膝を崩したお勢は、斜っかけにこう、小さい猪口を差します。